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世界中のハイブランドのバッグを作ってきたメーカーが、子どもに寄り添いながら本気で作ったランドセルとは

英語の教材やタブレット端末、水筒など、小学生が背負って登校している荷物は数年前よりも重くなっています。小さな背中で大きなランドセルを背負い、両手に荷物を持って重そうに登下校する姿は痛々しく、肩こりや腰痛を訴える小学生も少なくありません。そんな子どもたちの負担を少しでも減らすべく、世界中のハイブランドのバッグを作ってきた株式会社由利が作り上げたのが「スクールリュックUMI」。子どもたちの声をとことん聞き、たった一人の子どもの声も聞き逃さず、何回もの改良を重ねて誕生しました。そこにあるのは、半世紀に渡り積み上げてきた鞄作りの高い技術、そして子どもたちへの愛情と優しい眼差し。スクールリュックUMIに込めた思いを、永井宜積(よしずみ)常務に聞きました。

目次

ー初めてのランドセル作りは、子どもたちの声をとことん聞くことから始まった

ーすべての荷物が入るのに軽い!重さを感じさせない秘密とは

ー子どもにも地球環境にも優しいから胸を張り、誇りを持って選んでほしい

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

初めてのランドセル作りは、子どもたちの声をとことん聞くことから始まった

ーーパッと見ると、普通のランドセルと変わらない見た目で驚きます。

そうなんです。
一般的なランドセルを背負って登校している子どもたちの中にUMIを背負っている子が混ざっていても、「あれ? UMIはどれだっけ?」と私でも思うほどです。

子どもたちの声を聞いていく中で「他の子とあまりにも違うものは嫌だな」という声があったので、できるだけ一般的なランドセルの形とかけ離れないように意識してデザインしました。

ーーみんなと違って嫌だなと思ってしまうと、毎日背負っていくのが憂鬱になってしまいますからね。子どもたちの声は、どうやって集められたのでしょうか?

弊社は地域ブランド「豊岡鞄」のメーカーです。豊岡鞄は独自の認定制度により、厳しい審査を受けて通った商品だけが名乗ることができるので、職人の手により1つ1つ丁寧に作った鞄の品質には自信と誇りを持っています。

とはいえ、ランドセルについて造詣が深かった訳ではないので、まずは子どもたちの声を徹底的に聞くことから始めました。100名以上の親御さんとお子さんたちに、今使っているランドセルで気になるところや、「こうだったらいいな」と思うことなどを自由に書いてもらったんです。

集計していると、いくつかに問題点が集約されてくることに気がつきました。一番多かったのは、容量についてです。特に、「荷物が多い週初めは荷物が全部入らない」という声が多く聞かれました。次いで「重くて肩が痛い」という声、そして高学年になって体が大きくなってきたり上着がかさばる冬になると「背負いにくい」という声です。ランドセルの中で物がガサガサ動いてしまい、「筆箱から飛び出した鉛筆の芯でランドセルの中が真っ黒になる」という声もありました。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

ーー実際に使っている子どもたちと、それを間近で見ているご家族だからこその声ですね。

そうなんです。
なぜこういう声が挙がるのか、一般的なランドセルと子どもたちの声とを照らし合わせながら分析し、自分たちで作り上げるスクールリュックにはそれをどう反映させようか、一つ一つ考えていきました。

子どもたちの登下校の様子を何度もこっそり見に行ったりもしました。やはり、実際に自分の目で見ることが一番なんです。夏場の子どもたちを見ていると、重いランドセルを背負って、さらに大きな水筒を肩から斜めがけにして登校していました。コロナ禍で学校へ水筒を持参するようになったんですよね。

その水筒の紐が首のあたりに食い込んでいる姿を目の当たりにすると、なんとか持ち物全てがリュックに入るようにしてあげたいと強く思いました。スクールリュックの製造は初めてですが、半世紀以上に渡り豊岡鞄を作ってきた技術を落とし込んでいけば解決できると思ったんです。やり甲斐のある挑戦でした。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

すべての荷物が入るのに軽い!重さを感じさせない秘密とは

ーー水筒以外にも、体操着や上履きなど小学生の持ち物は本当に多いですよね。

はい、なので大容量のスクールリュックを作ることは大前提でした。
大容量とは、子どもたちの持ち物すべてを入れられること。結果的に、ファスナーを開いた最大時で15リットル、通常でも13リットルの容量を実現することができました。一般的なランドセルが10〜13リットル程度なので、かなり物が入るようになったと思います。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

ーー容量が大きくなると、その分中身の重さも増して耐久性も求められますよね。

UMIは廃棄漁網を再生したナイロンの生地を使っているので、耐久性の点ではまさに、長年ナイロンやポリエステル等の素材でビジネスバッグを作ってきた経験が生きました。出張するビジネスマンの荷物は、パソコンや資料などでかなりの重さがありますが、その重みに耐えられるかどうかの強度検査はこれまでも何百回、何千回とやってきましたから。

また弊社では、年間4,800本ほどの修理を受けています。フィードバックサイクルと呼んでいますが、修理する中で見えてくるものを次の製品開発に生かし、修理が来ないように改良していくことを繰り返しています。例えば、リュックの背負いの付け根の部分など、重みがグッとかかるところは修理がきやすい部分です。UMIには、経験から培ってきた技術を全面的に注ぎ込みました。

ーー容量が大きくて耐久性があると、どんどん荷物を詰め込めてしまうので荷物がより重くなってしまいませんか?

荷物の重量自体は重くても背負った時に重さを感じさせないために、ショルダーベルト「ZeRoG(特許出願中)」という、独自開発の荷重分散ベルトの仕組みを取り入れました。

同じ重さでも、重みが一箇所だけに集中的にかかっていると重さを感じますが、全体に分散している時は重さをさほど感じませんよね。そこで、ベルト内部に入れる芯材の組み合わせを変えながら、組み合わせによって体のどこにどれだけの荷重がかかるかを何度も繰り返し調べました。

その結果実現したのがZeroGです。3種類の異なる芯材を入れることでベルトを広く肩にフィットさせ、荷重を分散させることに成功しました。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

ーー実際の重さを感じさせない技術は画期的ですね。

子どもたちは、大人の出張と同じぐらいの重さのものを持ち歩いているんですよね。普段使っているランドセルを実際に持たせてもらったこともありますが、こんなに重いのかとびっくりしたほどです。登下校の様子を見ていると、1年生になったばかりの子は小さくて背中も薄くて、本当に大丈夫なのかと心配で。だから、できるだけ軽く感じさせてあげたいと思ったんです。

そこで、もう一つ工夫しました。スクールリュックの真ん中に可動式の収納間仕切りをつけたことです。これにより、重い教科書類を背中に近いところで固定できるようになりました。重いものは背中に近いところにあるほど体幹で持つことができるので軽く感じますし、重心が後ろにいくことも防ぎます。

それに、子どもたちって、元気よく走り回るじゃないですか。仕切りをつけたことでリュックの中で荷物がガチャガチャと動くことも防げるようになりました。中身を気にせずに思い切り動き回ってくれたら嬉しいですし、仕切りを使って「整頓して収納する」ということを身につけるきっかけにもなってくれたらいいなと思っています。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

ーー子どもへの目線が優しくて、言葉の端々から愛情が溢れています。一般的なランドセルの蓋は、ロック部分の金具が自分や友だちに当たると怖いなと感じる時がありますが、その点、UMIのロックは安全で開け閉めも簡単なんですよね。

重ねるだけで簡単に締まるマグネットホックを採用しました。ロックをする必要もなく近づけるだけで閉まりますし、開くときも横にずらすと簡単に空きます。樹脂製なので当たってケガをする心配もありません。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

子どもにも地球環境にも優しいから胸を張り、誇りを持って選んでほしい

ーー今、具体的に教えていただいた以外にも、通気性が良く蒸れにくい背面パッドや暗い場所でもキラリと反射するリフレクターを四方向につけるなど、細やかなところまで安全や快適さに気を配られています。子どもに優しいスクールリュックですね。

モニターとして試作品のUMIを使ってくれた小学生と親御さんが1年間に渡って使用感や使いにくさなどを率直にフィードバックしてくれたからこそ、改良を重ねるたびにより使いやすいものに近づけていくことができたと思っています。

実は、「もうこれで完成かな」と思った最終段階のころ、「(ショルダーベルトが当たって)首がちょっと痛いかも」と教えてくれたお子さんが一人いました。

たった一人の声と言えばそれまでかもしれませんが、一人でも痛いと感じる子がいるなら、そのまま世の中に送り出すことはできません。ショルダーベルトの内側の縫い目をなくすことで、首に触れる部分を柔らかくすることができました。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

ーーたった一人の声を聞き逃さないで改良する姿勢は、なかなかできることではないと思います。

それができたのは、半世紀に渡って修理を続けてきたフィードバックサイクルがあり、お客様の声やフィードバックが何より大切だと身に染みているからだと思います。

UMIは一旦完成しましたが、今もまだ、モニターとして子どもに貸し出しています。今はベストだと思っていても、後からわかることもありますし、もう少し改良した方がいいという課題は必ず出てきます。これからも妥協せず、常にベストを更新していきたいと思っています。

ーーUMIは廃棄漁網を再生して作られたナイロンでできていますが、UMIを手にする親御さんやお子さまたちに伝えたい思いを教えてください。

UMは廃棄漁網の再生生地を使っているだけでなく、全体の60%の素材に、リサイクル素材を使用しています。UMIを選ぶという選択は環境への負荷をかけないという選択であり、豊かな海を守ることにつながります。

今は少子化ということもあり、お子様には「とにかく一番良い革を使ったランドセルを買ってあげたい」「一生に一度だから記念になるものを」などと「ラン活」が加熱しています。いろいろな価値観があると思いますが、子どもにとっては快適で安全に通学できるランドセルが何よりだと、子どもたちの声を聞きながら実感しています。

子どもたちのためにも、目先のことだけではなく未来のことも考え、環境に配慮したランドセルを、どうぞ胸を張って誇りを持って選んでほしいと思います。それが未来の子どもたちのためにもなり、子どもたちの価値観や考え方にも、いい影響を与えることができると思っています。

UMIを作った人へのインタビュー|豊岡鞄スクールリュック UMI|新しい発想の ランドセル

Interviewer・Writer 

平地紘子

大学卒業後、新聞社に入社。記者として熊本、福岡支社勤務。九州・沖縄で暮らす人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材を得意とする。小学生2人の母。mugichocolate株式会社所属。